[12] リレー小説本編スレ11 [ 返信 ]
Name:ミンズ Date:2015/02/25(水) 09:31 
リレー小説本編を書き進めていくスレです。
文章の解釈に迷ったり今後の展開などで言いたいことがありましたら設定用掲示板のリレー小説議論スレへどうぞ。
設定用掲示板:http://www3.atpaint.jp/mysyn/index.htm

[13] RE:リレー小説本編スレ11
Name:日夏 Date:2015/02/25(水) 23:00
「ハアッハアッ……!」
 自然と逸る呼吸と鼓動。不快感と焦燥感、恐怖と不安が身体の内側からビリビリと伝播し、動作と感覚を麻痺させる。口の中は渇き、吐き気すら催してきた。
 薄暗がりの中で不気味な光を放つ双眸は、橘平をまっすぐ捕らえて放さない。その光はひとつ、ふたつと増え、ゴルバットの群れに、いつの間にかすっかり周囲を囲まれてしまった。
(落ち着け……落ち着けッ!)
 僅かに機能する理性で、自分自身を抑制しようにも、本能は遠い昔の恐怖に支配されていた。手は震え、足にはまるで自分のものでないような浮遊感を覚える。

 橘平の脳裏には、10年前の記憶が何度も再生されていた。
 何でも願いを叶えてくれる神様がいるという噂を無邪気に信じ、死んだ母親の面影を追いかけ、町外れの洞窟に無謀な冒険を挑んだあの日。しかし、そんな美しいおとぎ話など、あの洞窟には存在しなかった。
 それまでの平穏な生活の中では、見たこともないほど凶暴な野生のポケモンたち。人間としても、トレーナーとしても幼かった橘平は、襲い来るゴルバットの鋭い牙になすすべも無く、母の形見であり、らいでんの父親でもあるニドキング――むさしを失った。自分自身の弱さのせいで、むさしを殺し、らいでんを傷つけ、自らも大きな傷を負った忌むべき記憶。

 異様な緊迫感。かろうじて留めることのできているこの視線を、外した途端に、奴らは襲いかかってくるだろう。
 四方から突き刺さる殺気。もはや逃げることはできない。しかし、戦うこともできない。らいでんのモンスターボールは、先ほどからガタガタと震えが止まらないが、今ここで彼を放てば何が起きるか、橘平には想像がついた。
「クソ……」
 なぜ自分の儀式が、よりによってこうなのだ。理不尽な運命の苦い味を噛み締める。だが、そうやって運命を呪っていても、いつまでもこうして立ち尽くしても、埒があかないのは事実だ。
 ふと、洞窟の外に置いてきた、仲間らの顔が目に浮かんだ。共に行こうかと促したユメト。洞窟に入る自分を心配そうに覗き込んでいた司。4人を突き放して、置いてくるのではなく、今、この場に連れてきていれば――。
「ギャルルオオー!」
 ゴルバットの群れの中の一匹が発した耳を劈く鳴き声に、橘平は我に返った。今の一声はおそらく襲撃の合図だ。
 何を甘えたことを考えていたのだ。この島に来てから、ずっとそうだ。今までの自分が積み重ねてきたものが、ひょんなことで彼らに揺るがされる。二度と、二度とあの日の苦い思いを、悲痛な誓いを忘れてはならない。揺るがしてはならない。

 誰にも自分を守らせる訳にはいかない。
 守られる弱い存在ではあってはいけない。
 ――自分しか、頼ることはできない。

『ざぁんねん、アンタはどんなに頑張っても非力で弱いおこちゃまなのよ、坊や』

 突如耳の奥に鳴り響いた声に、橘平は硬直した。この島に来てから引っかかっていた何かが、今の特異な状況を引き金に、眠っていた記憶を呼び起こした。
 忘れ得ない過去の惨劇の中で、唯一不明瞭だった何かが、みるみるうちに色づいていく。あの日の自分は、単に凶暴な野生のポケモンの襲撃に、巻き込まれたのではない。洞窟をおそるおそる探索する幼い自分の前に、明確な敵意を持って現れた、黒いコートの集団。黒いコートの集団は、奇妙な機械をもって、まるで操るかのように、野生のポケモンたちの牙を自分に向けさせた。その黒いコートは、エシュに来る前、雨の夜に、対決した背の高い青年と、青い瞳の少年のそれに、酷似していた。

「あいつらも、まさか……」

 全ての記憶が繋がった瞬間、本能が暴走を始めた。心は恐怖で満たされ、頭が回らなくなる。
 暗い、怖い。殺される。また自分のせいで、大切なものを失う。何も守れない。怖い。俺は弱い。弱いから、みんなを傷つけてしまう。殺される。怖い。俺が弱いから、弱いから。弱いから、置いて行かれる。置いてかないで。置いてかないで。置いていかないで――。

「……ぐっあああああ!!」

 隙を見つけたゴルバットに、いとも容易く橘平の腕は切り裂かれた。手に握りしめていたらいでんのモンスターボールは転げ落ち、その反動でボールの開閉スイッチが入る。

 しまった。
 そう思ったときには、遅かった。らいでんは外にも届かんばかりの咆哮を上げ、今にも崩れそうな洞窟の中で、じしん攻撃を放っていた。

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掲示板再稼働ありがとうございます!
そして大変遅くなりましたが続きでございます。

これ見よがしに外に聞こえるよう、らいでんに吼えさせて、かつ土砂崩れも起きそうな感じにしておいたので、どうか、どうかお手数お掛けいたしますが、救助を、お願いいたします……。

[16] RE:リレー小説本編スレ11
Name:スラリン Date:2015/05/04(月) 21:16
幸せな夢を見た。夢だと分かっていた。
しばらく顔を見ていない父親と、久しぶりに顔を見せた途端敵に回った兄。いるはずのない2人と仲良く食卓を囲っていたからだ。他愛も無い会話をして笑い合った。疑ってしまえばすぐに醒めてしまう夢な気がして、一抹の疑問は投げ捨てた。
季節の野菜が入った色とりどりのサラダ、ふっくらと炊き上げた温かいご飯、菜の花のおひたし。そして、
「おまたせ」
台所から戻って来た母。大皿にはピーマンの肉詰めが盛られている。ピーマンが苦手な自分のために母が工夫を凝らして甘辛く煮付けたそれが、自分は大好きだった。
一口齧って理解して、二口頬張り納得した。夢の世界では味なんて分からない。それでも無我夢中でかぶりついた。
『…さん、…かあさん。お母さん』
どうしても、あの味にたどり着けない。

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「ん………」
どれくらい経ったのだろう。幸せな夢に別れを告げるように橘平は目を開けた。
ぼやけた視界にうつる白い天井と、若葉色の髪。
「橘平くん、よかった…」
ユメトだ。そういえば何故自分はここに?儀式は、洞窟はどうした?らいでんは?
吐き出そうとした言葉は、体中の激痛に押し込められた。
「痛ッ………!?」
「じっとしてて。今ジョーイさんと皆を呼んでくるから」
走り去る背中を見ながら橘平は倦怠感に包まれたため息をついた。いつまでも夢見心地ではいけない。解決すべき事は山ほどもあるのだ。

ユメトの知らせを聞いて駆けつけた司、巡は橘平を見て顔をほころばせた。要も表情こそ変わらないが安心したようだった。
「橘平さん、丸一日眠ってたんですよ」
「そうか……らいでんは?」
「今はもう落ち着いてるよ。ほら」
司から手渡されたモンスターボール。崩落の衝撃で頑丈なボールに傷が付いていた。
らいでんの咆哮と凄まじい地震でその場に駆けつけた4人は興奮状態のらいでんを何とか鎮め、傷だらけの橘平をポケモンセンターまで運んだのだ。
「俺は……」
洞窟で聞いた声。取りそこなった神器。言いたい事も聞きたい事も全て飲み込んだ。

「腕の切り傷、足の捻挫。これだけで済んだのは奇跡ですよ。でもしばらくは安静にしていてくださいね」
ジョーイに諭された橘平は何とも言えない表情でユメトを見た。
「橘平くん、大丈夫だよ。皆ついてる」
どこまで進めるか分からないけど、今度は皆で行ってみようよ。
その優しさが嬉しくもあり、心苦しくもあった。
提案に肯定も否定もせず、橘平は目を閉じた。今眠ったらまたあの夢が見られるだろうか。
声をかけようとする司をユメトが優しくいさめ、4人はそっと部屋を後にした。

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きっぺちゃん洞窟から引っ張り上げたので、ちづかずでもユメきぺでもどんと来てください

[17] RE:リレー小説本編スレ11
Name:日夏 Date:2015/05/06(水) 13:17
 静かにドアの閉まる音を耳にしたあとも、橘平はずっと目を閉じていた。しかしながら、心は望んでいたはずなのに、身体は、夢の世界に戻ることを許してくれなかった。
 瞼の裏に広がる闇の中に、ぽつりぽつりと浮かんでは消えていく、いくつものイメージ。まるで巻き戻しを掛けているかのように、思い出されてくる洞窟での出来事。不思議と、心は穏やかだった。
 崩落の凄まじい爆音、ゴルバットのけたたましい鳴き声、そして、耳の奥で反響する、艶めかしい女性の声。

『ざぁんねん、アンタはどんなに頑張っても非力で弱いおこちゃまなのよ、坊や』

「本当に、その通りじゃねえか……」
 答えるかのように、つい、ぽつりと呟く。まるで溜め込んでいたかのように、じわじわと悔しさが湧き上がってきて、それはいつしか目の端から、一粒、二粒と溢れ出した。
 あの事件以来、二度と同じ事を繰り返さないよう、強く、より強くなることだけを目指して、10年間、泥のような努力を積み重ねてきたつもりだった。実際、ポケモンバトルなら、誰にも負けないくらい強くなったはずなのだ。それが、いざ同じ状況に立たされたら、どうだ。何もできなかった。そう、まるで何もできなかったのだ。何もできないまま、自分と、大切なパートナーを傷つけ、周囲に迷惑を掛けながら、のこのこと、洞窟の外に戻ってきた。あのときと、同じだ。
「くそ……くそう……」
 涙の粒はいつしか大きくなって、無数の軌跡を橘平の頬に描きながら、零れ落ちていった。

 どれくらいそうしていただろう。
 ふと、傍らで鳴る、カタカタという物音に気付いて、橘平は静かに目を開け、目線をそちらに向けた。
「らいでん……」
 傷の付いたモンスターボールが、何か言いたげに、揺れている。
 橘平は痛みに呻きながら身体を起こし、ベッド脇のボールを手に取った。よく見れば、中央の大きな傷の他にも、細かい傷が増えている。ボールをそっとひと撫でしてから、開閉スイッチを押した。
 光の粒が線になり、巨大な怪獣の姿を描く。数秒も待てばそこには、10年間、歩みを共にしてきた相棒の姿が現れた。
「がう……」
 らいでんはすっかり肩を落とし、落ち込んでいた。それもそのはずだ。彼にとってみれば、橘平こそ、かけがえの無い相棒。自らの暴走で、兄弟同然の橘平を傷つけたのだ。彼もまた、10年前の事件で決意を同じくして、血の滲むような努力をしてきた。考えていることは、同じだった。
「らいでん、俺たち、何も変わってねえな」
「がう」
 泣きはらした目で、少し苦笑いする。らいでんもまた、同じように笑ってみせた。
「がうがう」
 ふと、らいでんが、身振り手振りに何かを説明し始めた。橘平は、ポケモンの様子を見ることで、その感情や要求を察する才能に長けている。らいでんに対しては、幼い頃からの長い付き合いも相まって、それが顕著であった。橘平には、彼が何を言っているのかが、全て、手に取るようにわかる。らいでんも、それをわかって話していた。
「そうか……」
 橘平よりも早く目を覚ましたらいでんは、橘平が目覚めるまで、皆のやり取りの一部始終を聞いていた。らいでんが治療から戻ってきたときに、心からホッとした顔をしてくれたユメト。真っ青な顔をして、共に洞窟に入らなかった自分を責めていた司。そしてその司に、普段とは異なる神妙な面持ちで、黙って寄り添っていた要。巡は一言、ぽつりと呟いたという。

『また、見ているだけに、なってしまいました』

「俺は」
 これまで10年の間、誰も寄せ付けず、一人で生きていくことが、強さだと思っていた。だから、一人で生きていけるように、ずっと強くあろうとしてきた。誰とも関わりを持たなければ、相手も、自分も、傷つくことなど無いと信じてきた。しかし、それは間違っていた。そんな生き方をしてきても、強くなんてなれなかった。自分も、周囲も、皆を傷つけて、結局、何も変わっていなかったのだ。
 それならば。

 橘平はゆっくり立ち上がった。足は痛むが、歩けないほどではない。自分自身が、『どんなに頑張っても非力で弱いお子ちゃま』ならば、強くなる方法はもう、ひとつしか残されていない。
 部屋のドアを開け放つ。廊下には、律儀に皆が待っていた。

「みんな、俺に……俺に、力を貸してほしい」

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力を貸してください!!!!!
一皮剥けたのでちょっと素直になると思います。

次は洞窟再挑戦でお願いします!

[18] RE:リレー小説本編スレ11
Name:鈴木ニコ Date:2015/05/14(木) 00:37
行く先に、誰かが立っている。それは知らない男だったが、なぜだろう、母親に似ているように感じた。或いは兄に、或いは自分に、だ。力強い眼差しが、まっすぐこちらへ向けられている。何かを語りかけている様子だったが、声は届かない。まだ遠いのだ。悟った男は静かに消えて行く。長い尻尾が脇を抜けて、男を追いかけた。自分は追いかけなかった。遠くないうちにまた会えると、予感していた。



再挑戦の朝。
地震で半崩壊したと聞いていたが、眠り込んでいた一日と一晩(そのまま病室を出て行こうとした橘平を、ジョーイがなんとかベッドへ戻したのだった)の間に、入口はきれいに整備されていた。ぽっかり空いた暗闇は、前回と同じかたちに見える。奥から流れてくる風が、メッシュを入れた髪とピアスを揺らす。心は、もう揺れなかった。
「橘平、」
左肩に手を置かれた。仲間たちが隣に来ていて、こちらを見ている。
俺に、力を貸してほしい。頭を下げた橘平への反応は四者四様であったが、名前を呼ばれて頭を上げた橘平への回答は一つだった。
「一緒に行こう」

洞窟内に、6人分の足音が響く。
前にはユメト。オペラの炎で道を照らしてほしいと頼んだ。人工の光より、野生のポケモンへの刺激が少ないだろうとの判断だ。後には司と巡と要。またゴルバットたちに襲われたときは、ポケモンを出して応戦してもらう。相性が良い、電気タイプのメイリオが主力だ。バトルにあまり積極的でない要も、司の隣で小さく頷いた。巡は肩を貸すと申し出てくれたが、結局断った。そう肩を落とすなよ。いや、もっと落とせ。
そして隣には、
「がうがう、」
「??? ユメト、そこを右に曲がってくれ」
相棒の姿。道標となる空気の流れを聞き分け、橘平に進路を伝える。入口の前では小刻みに震えていたが、なあに武者震いだ。普段より固くなっている背中を強めに叩き、共に一歩を踏み出した。
一寸先は闇。その先の光を見つけてみせる。


奥へ進むにつれ道は険しくなり、野生のポケモンとの戦闘も増えた。全員疲労している。脚は遅く、口数は減った。しかし、立ち止まり、不満や弱音を吐く者はいなかった。
「がうがう!」
らいでんが興奮した様子で吠えた。頑丈な尻尾をぶんぶんと振るう。彼が伝えたいことは、橘平でなくても読み取れた。
「この先に、神器があるのか…?」
「がう!」
どくん、心臓が高鳴る。ここまで来れた。もうすこしだ。逸る心に、怪我をした脚はついていけない。前のめりになってしまう。後から慌てた様子の声が聞こえる。支えてくれたのはユメトだった。橘平くん、大丈夫?
「大丈夫だ、………ありがとう」
ユメトは珍しくきょとんとしていたが、すぐに顔をほころばせた。そういえば、素直に礼を言ったのは初めてかもしれない。周囲を顧みず、地震を放つのを止めてくれたこと。寒い廊下で、らいでんの治療が終わるのを待っていてくれたこと。一緒に戦ってくれたこと。兄について、無理に聞き出そうとしないでくれたこと。洞窟の前で、緊張する自分を心配してくれたこと。助けに来てくれたこと。ここまでついてきてくれたこと。
いや、感慨に浸るにははやい。洞窟の最奥まで行き、らいでんの力で封印を解き、神器を持ち帰る。まだひとつも達成していない。今度こそ、成功させなければ。
「行こう」
洞窟の最奥が、見えてきた。


???????????????
最終回じゃないです!!!そろそろちづかずが出てきそうな気配がします!

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