[87] リレー小説本編スレ10 [ 返信 ]
Name:日夏ゆうり Date:2012/07/07(土) 22:00 
リレー小説本編を書き進めていくスレです。
文章の解釈に迷ったり今後の展開などで言いたいことがありましたら設定用掲示板のリレー小説議論スレへどうぞ。
設定用掲示板:http://www3.atpaint.jp/mysyn/index.htm

もしかしてそろそろいよいよエシュですかね…

[88] RE:リレー小説本編スレ10
Name:日夏ゆうり Date:2012/08/23(木) 00:08
 巡が部屋に帰ってきた頃、橘平は丁度起きていた。起きてはいたが布団を頭から被って、ほんのり篭った巡とユメトの二人の会話をただ聞いていた。要するに、寝たふりをしていた。

「巡くん、遅かったね」
「すいません……ロビーでジョーイさん、要さん……それに、司さんと話し込んでいたら遅くなってしまって」
「謝ることないよ。シャワー空いたから使ってね」

 しばらくして巡がシャワールームに入った音がした。ユメトは隣のベッドに腰掛けようだ。本のページを捲る静かな音が微かに聞こえる。
 身体が熱く、ぼんやりしている。やはり風邪薬を貰っておけば良かっただろうかと一瞬思いを巡らせて、ハッとする。布団の外なら大きく首を振っていたところ、代わりに寝返りを打った。
(俺はいつからあいつらなんかに甘えるようになったんだ)
 頼る人などいらない。頼ったところで本当に助けてくれる人など誰もいないのだ。とうの昔に痛みを代償に覚えたことではないか。頼ってみようとして突き放されるなら、初めより自分から突き放して、一人でいる方が楽だと思って生きてきた。それがたとえ家族だとしても、皆一様に突き放してきたのだ。
(なのに)
 いざ突き放されたら予想外にショックを受けている自分がいた。和守のことである。頼っていたつもりなど無かったのに、敵として現れた兄と対峙してから、心は少なからず揺れていた。加えて、揺れた心に至って自然に手を差し伸べてくる儀式の『仲間』に、いつの間にか今までの『自分』の在り方を忘れそうになっている自分がいる。一度それに気付いてしまえば、いくらその考えを振り払って元に戻ろうとしても、不思議なことに心はより甘えたがった。
(こんなんじゃダメなンだよ……!)
 軽く舌打ちをするが、身体のだるさに思考するのももう面倒になった。心のうちに昨夜の雨雲のようなわだかまりを残しながら、橘平は強く瞼を閉じた。

◆ ◆ ◆

 エシュタウンに到着したのは3日後の昼頃だった。翌日こそ軽くだるさが残っていたものの(司も時折鼻を啜っていた)、次の朝にはまるであの晩の冷たい雨を忘れたかのように、すっかり身体の調子は良くなっていた。対して、心の雨雲は晴れるどころか、重くなる一方だ。何せ遂に着いてしまった。
(儀式……めんどくせェな)

 エシュタウン――高く強固な外壁に石畳、そして建物沿いに多々ある小道と抜け道が特徴的なその町は、遠い昔、伝説の中での激しい戦から、その身を守るように発展したような風貌を漂わせる。その実、エシュタウンでは独自の平和教育が徹底されており、伝説上の事象であるにも関わらず、戦争の記憶を風化させない努力が絶えず行われてきた。

「とりあえずお昼にしようか」
 前回アスクレに到着した際は真っ先に神器を司る一族に挨拶しに行こうと言い出した司も、ユメトの昼食の提案に素直に賛同した。手近な店を探しに、人通りのある大通りに出る。
 その時だった。
 何かに引き付けられたのだろうか。橘平はふと振り返って、その先に、見憶えのある後姿を見つけた。
 すらりと高い背。流れる赤紫色の髪。広い背中はいつの日か追い掛けたそれである。あの姿は間違いない。
「兄貴……ッ!!」
 橘平は我を忘れて駆け出した。後方で自分の名前を呼ぶ声がした気がしたが、構わずにスピードを上げる。
 何も考えられなかった。なぜ和守があのような行動を取っているのか、アスクレの一件以来長いこと考えていたし、色々思いを巡らせもしたが、いざ本人を目の前にすると、頭が真っ白になってただ追い掛けることしかできなかった。
 和守と並んで歩く男がいる。フードを被っていて、その特徴的な髪色こそ見えなかったが、背の高さから推測するに神崎千鶴だ。千鶴が隣にいるということはまたCCDが絡んでいるのだろう。
(俺の儀式まで邪魔するつもりかよ……ッ)
 本当に分からない。納得がいかない。和守が一体何を考えているのか、そしてどうして何も教えてくれないのか。
「クソッ」
 思わず舌打ちする。行き交う人に腕が、肩がぶつかり遅れを取った。

 気付いた時には前にあった筈の二人の姿は全く見えなくなっていて、橘平は見知らぬ路地にいた。
「……ッ!!」
 声にならない悔恨を吐き捨てて、隣にそびえる建物の壁を殴りつける。しばらくそこに立ち尽くしていると、後ろに置いてきた仲間たちが間もなく駆け付けた。

 雲行きが怪しい。橘平の心の雨雲が、皆を巻き込む嵐と化す前兆だった。

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お待たせした上に長い上にきっぺ出しゃばり過ぎですいませええええええええズザザザ
このままお昼食べに行ってもいいし、お昼すっ飛ばして一族に挨拶行ってもオッケーです!
うわあああエシュ編よろしくお願いします!

[89] RE:リレー小説本編スレ10
Name:ミンズ Date:2013/05/01(水) 21:28
「どうしたんだ、橘平」
駆けつけるなり、司が聞いた。
「何でもねぇよ!」
橘平はほとんど怒号のように叫び返すと、和守が消えた方角をきつく睨んだ。
「何かあったんだね。俺たちには話せないの?」
ユメトがやんわり聞くと、橘平は怒鳴り返した。
「何でもねぇっつってんだろ!」
「何でもないなら、お昼食べに行かない?私、お腹空いちゃった。ね、司さんもそうじゃない?」
要がどうでも良さそうに言って、司も賛同する。
「そうだね。何も無かったならそれで良いし、何かあったなら尚更一度腰を落ち着けて気持ちを鎮めた方がいいよ」
橘平は「それどころじゃねぇよ!」と返しそうになったが、何でもないと言ってしまった手前それははばかられた。ぐっと言葉に詰まって、そのまま黙り込んで足元を睨む。
それを暗黙の了承と取ったユメトが、ぽんと手を叩いた。
「それじゃあ、お昼にしようか。巡くん、この近くに昼食を摂れる場所はないかな?」
どうやら無理に聞き出すのは得策ではないと判断したようだ。巡に目配せする。
巡は気遣わしそうに橘平にちらと目をやってから、地図に目を落とした。
「この道を少し戻ると、レストランがあるようです」
「じゃあ、そこでお昼を食べようか」

昼食を選んでいる間も、待っている間も、食べている間も橘平は不機嫌で、ほぼ無言を通した。
巡もつられて黙り込む。ユメトも無理に話しかけるようなことはせず、橘平に話しかけるのは必要最低限にしていた。
「司さんのおいしそう!私のとちょっと交換しよう!」
「いいよ。丁度要のもおいしそうだと思っていたところだったんだ」
「わーい!司さん、はい、あーん!」
「えっ、それはちょっと…」
空気が読めないのか敢えて読もうとしていないのか、要が絶えず司にちょっかいを出していて、司もそれに応じ、全員が黙り込む事態に陥っていないのが橘平にとって救いのようであり、余計心を波立たせる要素のようでもあった。恐らく周囲が喋っていようが黙っていようが気が立っている橘平には苛立ちの材料になりえただろう。
橘平はほとんど味もわからないまま、早々に昼食を食べ終えた。手持ち無沙汰で、まだ食べ終わっていない残りの面子を眺めやる。食べている途中ふと顔を上げた巡と目が合って、謝られてしまった。
「すみません…」
「っ…」
目が合っただけで謝られるとは。どうやら無意識に周囲を睨んでいたようだ。
橘平は机の下で拳を握りしめて、深くため息をついた。今までこちらから突き放していた兄が向こうからも突き放してきた、ただそれだけのことなのに、こんなに動揺している自分がいる。理性では些細なことだと思いたいのに、感情がそれを許さない。橘平はぎりりと唇を噛み締めた。

橘平にとっても他の面子にとっても長く感じた昼食が終わり、一行はようやく神器を管理している一族の元へ向かうことになった。
山の中にある神社に入ると、気の良さそうな中年男性が迎えてくれた。橘平の無言を緊張のせいと取ってか、やたらとフレンドリーに話しかけてくる。
「おおっ、もしかして橘平か?和守が来るとばっかり思っていたから驚いたよ。はっはっは、メッシュなんか入れちゃって、ピアスまでして、一丁前に不良のつもりか?おじさんのことは覚えてないだろうな、何せこの前会ったときには橘平はこーんなにちっちゃくて…」
「うるせぇ!」
そう怒鳴ることはそんなに珍しくなかったが、こんなに心の底からうるさいと思って発する「うるせぇ!」は久しぶりだった。
「和守が来るとばっかり思っていたから驚いたよ」に、ずしりと胸が重くなる。本当は兄が儀式に参加するはずで、父も兄もそのつもりで準備を整えていたのに、未成年でないと儀式に参加できないという理由で橘平が参加することになってしまったのだ。
兄が成功させたかったであろう儀式。そのはずなのに、儀式を邪魔しようとする兄。
橘平は睨むような目つきのまま、神器を取る手順を男性から聞いた。普通に神器のところまで行ってらいでんに結界を解かせて神器を持ってくるだけ。禊が無い分、要のときよりも簡単に思えた。
聞き終えて、神器を取りに歩きだそうとすると。
「じゃあ、行こうか」
当たり前のように、ユメトが先導した。まるで、仲間だから一緒に行くのは当然だ、とでもいうように。
それが気に障った。
橘平はユメトの前に立ちはだかった。
「神器は俺1人で取る!ついてくんじゃねぇよ」
「えっ、でも」
「お前らはここで待ってろ!こんな馬鹿馬鹿しいもん、俺1人で充分だ!」
男性が笑う。
「おっ、元気いいな。だったら1人で行ってみるか?他の4人には入口で待っててもらうことにして」
「入口?」
「ま、行ってみればわかるさ」
男性は一行を山の中へと案内した。
「少し歩くぞ」
「おう」
案内された先は、洞窟の入口だった。
「橘平くん、本当に1人で大丈夫?」
ユメトが心配そうに聞く。
「大丈夫だっつってんだろ!」
橘平はそう答えながらも、しばらく洞窟の前に立ち尽くした。どうして、よりによって洞窟の中なのか。
橘平の頬に、冷や汗が流れた。

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こんなもんでどうでしょー。
ハルくんが洞窟苦手な理由の説明は次の方に丸投げ!

[90] RE:リレー小説本編スレ10
Name:鈴木ニコ Date:2013/05/03(金) 02:47
橘平は、洞窟の前から動けないでいた。
奥から流れてくる風が、メッシュを入れた髪とピアスと心を揺らす。冷や汗が軌道を変えて首筋を伝い始めた。入口から中の様子を窺うことはできない。右肩から左脇腹を走る大きな傷跡が、じくりじくりと疼く。一寸先は、闇だ。

「  ………い、……橘平ッ!」
「ッ!」
突然右肩を掴まれて硬直する。いつの間にか司が隣に来ていて、顔を覗き込まれていた。橘平の反応に驚いて、すぐにごめんと手を離す。その表情からは困惑と不安も読み取ることができた。前から思ってたけど、お前顔近えんだよ。
「………なんだよ」
「いや、呼んでも反応がなかったから……緊張、しているのか?」
素直に心配してくれている様子だが、橘平は恐怖心に気付かれたのではないかと動揺した。司たちに弱さを見せるつもりはなかった。同情なんてまっぴらごめんだ。王子も、ユメトも、巡も、(要は司のことしか気にしていないだろう)お節介なんだよ!
「してねえよ!余計な世話だ!」
必要以上に声を荒げて、橘平はずかずかと歩き出した。何か声を掛けられた気がしたが、聞こえないふりをした。


洞窟に入ると、橘平の脚はたちまち減速した。何も見えない。道標になるものは、空気の流れだけだ。ひょおひょおという音を探って、橘平は目を閉じた。聴覚はらいでんの得意分野だが、ボールから出す気にはなれなかった。彼は自分以上に、あの事件を克服できていなかった。
橘平とらいでんの、身体と精神を傷つけた事件。もう、十年も前のことになる。

時間の流れが早いのか、遅いのか。洞窟を抜けるまでに二十分もかからないと聞いていたが、もう一時間以上経っていると錯覚する。時間を確認するために取り出したCギアは、点けても懐中電灯代わりにはならない。中途半端に照らされた岩肌が、ハナダシティの洞窟と似ているように見えたのは気のせいだろうか。否、洞窟なんて何処も似たようなもんだ…
Cギアをポケットに仕舞う。どうせ見えないのなら、目を閉じていた方が暗闇を意識しないで済む。また風の音が聞こえてきた。

( ………なん、だ? )
風の音が変わった。というより、別の音が混ざったように感じた。自分と空気以外の何かが、この洞窟で動いている。
( ………何か来るッ!!!)
石だらけの地面に伏せた橘平の上を、何かが通過した。メッシュを入れた髪とピアスと心が揺れる。数秒前まで、橘平の頭があった場所だ。姿を確認することはできないが、殺気を帯びた光点は、暗闇の中で悪目立ちしていた。橘平の喉から、ひょおひょおという音が漏れる。
「…………、ゴルバット……!」

らいでんの入ったボールが、がたがたと震えていた。

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顎、再来。きっぺちゃんの心理描写を書くために、過去話を読み返したのですが、しょたっぺちゃんかわいいいいい!で満足してしまいました(^ω^)

[91] RE:リレー小説本編スレ10
Name:ミンズ Date:2014/02/22(土) 19:26
少し早いですが削除防止書き込みです。

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