[67] リレー小説本編スレ8 [ 返信 ]
Name:鈴木ニコ Date:2012/02/21(火) 22:06 
リレー小説本編を書き進めていくスレです。
文章の解釈に迷ったり今後の展開などで言いたいことがありましたら設定用掲示板のリレー小説議論スレへどうぞ。
設定用掲示板:http://www3.atpaint.jp/mysyn/index.htm

アスクレタウン編お疲れ様でした!

[68] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:日夏ゆうり Date:2012/02/26(日) 18:45
「エシュまでの間には、いくつかの休憩ポイントがあるみたいですね」
 巡がタウンマップを広げながら控えめに口を開く。すっかり地図係が定着している。
「一番近いのはどこかな?」
「ここから徒歩で2時間ほどの場所でしょうか……キャンプ場があるみたいです」
「じゃあ、今日はそこに泊まろうか。大分出発が遅くなっちゃったからね」
 時刻は16時近く、辺りはすっかり夕暮れだった。アスクレタウンにもう一泊することも視野に入れてはいたが、近傍に宿泊施設があるのならば、なるべく歩を進めておくに越したことは無い。
「司さん! キャンプファイアー囲んでフォークダンスしようよ! 私エスコートには自信あるよ」
「そ、そうか」
 女子勢はいつぞや聞いたことがあるような会話を交わしている。要は頬を寄せんばかりに司に密着しているだけでなく、腰に回したはずの手で、時たま司の胸の辺りを撫でまわしていた。要からの強力なセクハラに、司は完全に戸惑っている。そしてメイリオからは、傍から見ても分かるほどの殺気がひしひしと――要が怪我していなければ、いつ振り落とされていてもおかしくない。
 女子勢に比べれば男子勢は比較的静かだったが、儀式に出た頃のような気まずさは無かった。まだ儀式が始まってから1週間も経っていなかったが、困難を協力して乗り越えたことが、少しずつ彼らを結び付けているのかもしれない。

◆ ◆ ◆

 巡の概算通り、キャンプ場には2時間弱で着いた。真っ先にやらねばならないこととして挙げられたのが、夕食の準備だ。これが、儀式開始後初めての自炊になる。メニューは無難にカレーで満場一致した。
 橘平を除く4人は早速準備を始めた。橘平は自分の荷物から食材を出しただけで、手伝いもせずにベンチにどかっと座り込んでいた。
「ふふ、何だか林間学校にでも来た気分だな」
 野菜を洗いながら、司が目を細めた。しかし、隣で野菜を切り始めた巡が視界の端に入った途端、その手をぴたりと止める。
「巡! 何て危ない切り方してるんだ。家庭科の授業で習わなかったのか!」
「え……でもいつもこうやって切っているので……」
 確かに少々危なっかしい切り方だった。司は巡の手の上に自分の手を被せて握らせる。巡の顔がみるみる強張っていく。
「手はねこの手、だ」
 それを見た要は面白くなさそうな顔をしてから、手に持っていた野菜の入ったかごを大袈裟なリアクションで落としてみせた。
「わあっ!」
「要ちゃん、大丈夫?」
 じゃがいもの皮を剥いていたユメトが振り返る。落ちた野菜を一緒に拾いながら、要に微笑みかけた。
「もう一度洗わないとね」
「う、うん……」
 明らかに望んでいたのとは別の人物からの助けに戸惑いながら、要はちらちらと司の方に目をやる。司は、「要、気を付けてな」と一声掛けただけで、巡への料理指導へ戻ってしまった。
 要はいよいよ耐え切れなくなって司に後ろから抱き着く。
「司さん、私にも教えてよー!」
「!? ……要、包丁使ってるんだ! 危ないじゃないか!」
 ――イライラ。
「ごめんなさーい……でも司さんが構ってくれないから……」
「しょうがないな、ほら、じゃあ包丁持って」
「わーい! 司さん大好きー!」
 ――イライライラ。
「あ、あの、次は何を切ったら……」
「そこに人参があるのが見えないのか!?」
「あ、巡くん、良かったら俺と野菜洗うの手伝ってくれない?」
 ――イライライライラ。
 一向に進まない夕食の準備に、橘平の苛立ちが爆発した。
「あー! お前ら何やってんだよ!! 全部俺がやる!!」
 儀式者内最も料理をしそうにない人物ナンバーワンからの怒声に、皆が動きをぴたりと止める。巡に至っては、握っていた人参をぽろりと落とした。
 橘平は腕まくりしながら、ずいずいと向かってきて、要の握っていた包丁を取り上げた。手際良くその周りにあった野菜を切り始める。皆がぽかんとしている間に、作業は着々と進んで行った。

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やったー!遂にお料理シーンだ!
書いてたらカレー食べたくなってきた。

[69] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:スラリン Date:2012/03/09(金) 00:40
「美味しい」
要の口から感嘆の声がこぼれた。他の三人も、うんうんと頷いている。
作業のすべてを橘平に任せてからは、カレーが出来上がるまでそう時間はかからなかった。巡が2分構っていた切りかけ人参を奪い、10秒もかけずに一口大に切り鍋に放り投げた。
いいから大人しく座ってろと念を押され、その間4人はただただ並んで座って彼を見ていた(一度司が手伝おうとしたが、お前が来ると面倒なんだよ!と言われ喧嘩になりかけた)
「俺もカレーは時々作るけど、全然違うんだね。本当に美味しいよ」
「…ふんっ」
にこにこと笑うユメトの顔をきまり悪そうに見て、視線を司の方に移した。
一瞬眼が合ったが、直後に要の「司さん、あーん!」という言葉で司の意識は完全に要に移ったようだ。代わりに司の隣に座っている巡と眼が合った。首を傾げている。お前じゃねえ。
司は口元に差し出された匙を戸惑いながら咥え、もぐもぐと口を動かしている。
「司さん、美味しい?」
「あ、ああ…美味しいよ」
「ねえねえ、私にも、あーんってやって!」
「…しょうがないな。ほら、あーん」
この短期間でこの2人はかなり仲良くなったようだ。なりすぎているようにも見える。…一方的に。
口を開けてせがむ要に司は苦笑して、自分の匙にカレーライスをすくい要の口元に持って行った。
「美味しいー!司さんありがとう!大好き!!」
「わっ」
「うわっ」
ぎゅうっと司を抱きしめると、要の重みで司がよろめいて巡にぶつかった。司の重みで巡も大きく左によろめく。なだれてるなだれてる。
司の右腕を自分の左腕と組ませてがっちりホールドしている。利き手が使えなくなった司は左手で匙を使おうとするが、今度は巡の右手とぶつかった。
どうすることも出来なくなって、再び苦笑いで今度はユメトを見つめる。ユメトが返す笑顔はいつもと同じ癒しの笑み。ああ、苦くない。
「橘平くん」
「…やらねェぞ」
「俺がするよ?はい、あーん…」
「しなくていい!!」
橘平が大声をあげたその瞬間、後ろの方から、ざり、と砂利を踏む音が聞こえた。

ユメトと橘平が振り返り、要、司、巡が視線を遠くにやる。
「…ッ!あいつら、もしかして!」
5人の視線の先には2人の少女。1人は三つ編み、もう1人は長い髪を一つに束ねている。
そして真っ先に目に入るのが、少女たちが頭につけている、白いインカム。
「先日は私たちの同僚がお世話になりました」
三つ編みの少女が口を開く。
同僚。インカムを見た5人が特定の人物を想像するのには、その言葉だけで十分だった。
橘平に勝負を仕掛けてきた神崎 千鶴。そして、橘平の兄と名乗った戦部 和守。

「私の名前は瀬上凛子」
「あたしは西宮あざみだよー」
「私は加藤 要だよ!!」

一瞬、空気が凍りついた。だいぶ女の子に飢えていたのだろう。要の眼がすごくキラキラしている。
今にも2人にとびかからんとしているのを、司が要の腕を掴んで阻止していた。凛子と名乗った少女の眼がひどく冷たい。
「…君たちは一体誰なんだい?どうして俺たちの旅の妨害をするのかな」
ユメトが空気を無理やり引き戻す。要以外の全員が、心の中で彼を褒め称えた。
「答える義理は無いわ。―だけれど」
気を取り直して、凛子が腰のモンスターボールを手にする。あざみもそれを見て、少し迷った後ボールを一つ選んだ。
地面にバウンドした2つのボールは同時に開き、中からグライオンとトゲキッスが現れた。
状況があまり理解できないのか笑顔のままふよふよと浮かんでいるトゲキッスと、手のハサミをじゃきじゃきと鳴らし臨戦態勢のグライオン。両極端だ。


「あなた達は、私達の敵よ!」

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長すぎたので、ばっさりと切ってしまいました。
次にマルチバトルの予定でしたが、誰が誰と組んでも美味しいと思いますね…じゅるり。

[70] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:ミンズ Date:2012/03/10(土) 19:27
2人がポケモンを出したのを見るやいなや、即座に橘平がボールを投げる。
「らいでん!」
すぐにユメト、司も続く。
「オペラ、よろしくね」
「メイリオ、頼む!」
巡も傍を流れていた川に向かってボールを投げる。
「ピスケス、お願いします」
要は司の意識がバトルに移った隙に、あっという間もなく少女2人の前に移動していた。
「凛子さん、いいおっぱいだね!触っていい?」
凛子の表情がみるみる嫌悪で満ちる。
「気持ち悪い。寄らないで」
それだけ言って瞬時に意識から要の存在を切り捨て、バトルの姿勢に入る凛子。
要はちょっと口を尖らせると、あざみに向き直った。
「あざみさんかわいいね!私と夜のバトルしない?」
あざみは一瞬えっという顔をしたが、すぐにその発言に食いついた。
「それってあたしのこと、好きってこと!?」
「うん、そう!だから夜のバト」
「嬉しい!」
今度は要がえっという顔になった。
「あたし、告白されたのなんて初めて!女の子に告白されるなんてびっくりだけど、愛があれば性別なんて関係無いよねえ!えっとえっと、交換日記から始める?ああっ、電話番号交換しよ!初デートはいつにする?」
嬉しそうに頬を染めながらどんどん盛り上がっていくあざみ。要に抱きつきそうな勢いである。
要は司の元に逃げ帰った。
「司さん、あの子何か怖い…」
司の後に隠れる。司は不思議そうな顔になった。
「どうしたんだ、要。受け入れてもらえて良かったんじゃないのか?」
「何であの子あんなに積極的なの!?逆に怖いよ!っていうか司さん、嫉妬してくれないの!?」
「しないよ…」
しょんぼりした要に、あざみがさらに続ける。
「要ちゃん、クッキー好き?あたしねえ、おねえちゃんが作ってくれた生地の型抜きならできるんだ!あんまり得意じゃないけど、要ちゃんのために一生懸命型抜きするね!今度持ってくるから食べて!」
完全に恋愛モードに入っているあざみに、凛子が冷めた調子で声をかけた。
「あざみ、バトル」
それを聞いてようやく我に帰るあざみ。
「そうだった!凛子ちゃん、ごめんね!バトルだっけ!みんなごめんね、バトルしようよ!」
「グライオン、すなあらし!」
凛子が先手を取った。砂嵐が吹き荒れる。
「らいでん、トゲキッスにストーンエッジ!」
橘平も指示を飛ばす。
「ピスケス、グライオンにみずびたし!」
巡もいつものようにサポートに入る。
ストーンエッジを耐えたトゲキッスに、あざみが叫ぶ。
「んっと、シャンデラにでんじは!」
トゲキッスが放ったでんじはは、メイリオに吸収されて消えた。
「えっ、何で何で?何で効かないの!?」
おろおろするあざみに、凛子が答える。
「ゼブライカの特性、ひらいしんよ。電気技はあいつに吸収されるから、気をつけて」
「そっかあ!さっすが凛子ちゃん!じゃあ、戻ってトゲキッス!エルフーン、お願い!」
あざみはトゲキッスをエルフーンに交代した。
「要、リミティを戦わせないのか」
リミティを抱いたままの要を見て、司が声をかけた。
「うん…そうだよね、やっぱ戦わせないと駄目だよね」
要は気が進まない様子でリミティを地面に下ろす。
リミティは軽く尻尾を振ってつつ、と前線に出た。
「要ちゃんのポケモンかわいいねえ!エルフーン、ポリゴン2に愛のどくどく!」
あざみは嬉々としてエルフーンに指示を出した。
「あーっ、リミティ!大丈夫!?なら、こっちもどくどく!」
「エルフーン、どくどくに対してどくどくを返してくれるなんて嬉しいねえ、愛だねえ!嬉しいからもう一回お願いするよ。愛のアンコール!」
リミティが毒に侵されながらどくどくを出し続けるようになってしまったのを見て、要はボールをかざした。
「戻って、リミティ。もういいよ」
ボールを抱いてしゃがみこんでしまった要に司が声をかけようとしたが、凛子の言葉に意識をバトルに引き戻される。
「グライオン、じならし!」
グライオンが地面を踏み鳴らすと、地震が起きたように周囲が揺れた。
らいでんとメイリオは立っているのが辛そうだった。オペラも揺れに翻弄されている。
しばらくして揺れは収まったが、何だかまだ揺れているような感じがして気持ちが悪かった。ポケモンたちの動きも鈍ったようだ。
動きの鈍ったポケモンたちを見て、凛子はくい、と口の端を吊り上げた。
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うちの子ばかり目立ってしまってすみませんorz

[71] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:鈴木ニコ Date:2012/03/15(木) 06:43
数ではこちらが優勢だというのに、最初に発動したすなあらしと今のじならしで、勝負の流れは凛子のグライオンに持っていかれた。アスクレタウンではふたりの同僚に苦戦させられたが、彼女たちの実力も相当なものだ。
(一体、何者なんだ…?)
敵だと宣言されたからには、味方ではないのだろう。
巡が盗み聞いた話によると、複数の組織が儀式を妨害しようとしているらしい。凛子たちが敵ならば、その敵は自分たちにとって味方になり得るのだろうか。それとも――

(いいや。今は、この状況を立て直すことが先決だ)
右隣の要は、顔を伏せたままだ。リミティを戻したボールを、大事そうに撫でている。
司は、彼女がアスクレタウンでの戦闘に参加しなかった理由、儀式から逃げようとした理由をなんとなくだが察した。要は、リミティを傷つけたくないのだ。
(儀式に参加した以上、バトルを避けて通れるとも思えないが)
千鶴や凛子たちの存在はイレギュラーであったが、ムウマやグラエナのように、野生のポケモンとの戦闘は茶飯事になるだろう。身を守るためだ。要とリミティにも、慣れてもらわなければならない。
(今すぐにとは、言わないけどさ)
その肩を軽くたたいた。
(それまでは、僕が要の分までたたかおう)

「巡。ピスケスの水技でグライオンを攻撃してくれないか」
左隣の巡に声を掛ける。川のピスケスが跳ねた。しかし、トレーナーのほうは乗り気でない様子で、
「いいえ。グライオンへの攻撃は、メイリオが適任ですよ」
「メイリオが? いや、でもグライオンは…」
そこで、バトルが始まった直後のピスケスの行動を思い出した。そうか!
「俺は、すなあらしを止めます」
巡は口角を上げた。お?楽しそうだな。

「ピスケス、あまごい!」
補助技を命令されたピスケスはすこし不服そうだったが、頭上に雨雲をつくりはじめた。空はどんどん暗くなる。やがて零れ出した雨粒が、すなあらしを鎮静した。
「メイリオ!かみなりだ!」
メイリオの鬣から閃光が走る。雨雲に飛び込んだそれは、無数の光帯となってフィールドに降り注いだ。グライオンに的中する。
「グライオン!」
百発百中。あまごいとかみなりのコンビネーション技だ。気持ち良く決まった。思わず司が掌を見せると、巡もそれに合わせてくれる。ぱしん!

「どうして?凛子ちゃんのグライオンは、地面タイプなのに!」
地面タイプのグライオンが電気タイプのかみなりを受けたことに、あざみは正直に驚いていた。攻撃された凛子の方は冷静だ。
「みずびたし。あのネオラントが、グライオンに使った技よ。相手の属性を水タイプにする効果があるの」
「そんな技があるんだ!へえー、面白いねえ!」
子供のようにはしゃいでいる。
「それじゃあ、グライオンの分まで、おかえし!エルフーン、エナジーボール!」
「オペラ、まもる!」
まもるを発動したオペラが、エナジーボールを弾いた。そこにらいでんが飛び込む。
「ベノムショック!」
毒液を浴びたエルフーンと、あざみが小さく悲鳴を上げた。効果は抜群だ!

「ベノムショック…」
顔を上げた要に、ユメトが頷いた。
「毒状態の相手には、効果が倍増する技だよ。要ちゃんが、どくどく使ってくれたお陰だね」
橘平が、フン、と鼻を鳴らす。
要はリミティのボールをもう一度撫でた。


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かなめたんもあざみたんもかわいいね…!!!
もっとへんてこな戦法に挑戦したかったのですが、脳みそがカッチカチで思いつかなかったですね\(^o^)/

[72] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:日夏ゆうり Date:2012/03/31(土) 18:35
「グライオン、戻って」
 グライオンを戻したボールと引き換えに、凜子がベルトに控えているボールに手を掛ける。あざみも慌ててエルフーンを戻した。
 凜子はすかさず二匹目のポケモンを選んで、戦闘の構えに戻る。しかし、一瞬動きを止めると、儀式者に対してでもなく、あざみに対してでもなく、会話を始めた。この光景には見覚えがある――いつぞや千鶴がそうしたように、インカムの向こう側の相手と通話をしているのだ。
「……うん、まだこちらは片付いていないけれど……そう、分かったわ。あざみにも伝える」
 凜子はインカムの側面のスイッチで通話を終了すると、あざみに向き直った。
「あざみ、ここは一度お暇しましょう」
「えっでも、まだ足止めは……」
「他の仕事が出来たの。この人たちの相手は、まだ後回しにしても大丈夫」
 あざみと小声で会話を終えた凜子は、儀式者達を見ると、鋭い口調で言い放った。
「今回は警告よ。貴方達が儀式を中止しない限り、私達は何度でも貴方達と戦う。次会う時までに、せいぜい身の振り方を考えておくことね。私達の仕事を無駄に増やしたりしないで頂戴」
 凜子はくるりと踵を返すと、そのまますたすたと暗い森に消えて行った。あざみは律儀にお辞儀をしてから、「要ちゃん、またね!」と手を振り、凜子の後を追う。
 またしても、インカムの彼らは、嵐のように過ぎ去って行った。

「儀式を中止……だと……」
 初めに口を開いたのは司だった。各々がボールにパートナー達を戻す。ユメトは自らの荷物からどくけしを取り出し、要に渡した。要は小さく頷いて、「ありがとう」と消え入りそうな声で受け取った。
「そんなこと、できる訳ないだろう」
 司は眉を吊り上げた。「まあまあ」と巡が宥める。
「何とか今回も凌げましたし……」
「俺達も大分息が合ってきたね」
「……そうだな」
 巡とユメトの顔を交互に見て、司は表情を和らげた。
「次に来た時も迎え撃てばいい。儀式は必ず成功させよう!」
 ユメト、巡、遅れて要が頷いた。橘平は、冷めてしまったカレーの鍋に火を入れ直しながら、司の顔を一瞥したが、すぐに目線を鍋に戻した。
「ところで、巡、なかなかやるじゃないか」
「へっ?」
「バトルだよ。みずびたしにあまごい、助かった」
「い、いえ……俺にはあれくらいしかできることが無いので……」
 巡は照れくさそうに頬を掻いている。しかし、続く司の言葉に、ぴたりとその手を止めた。
「それくらいのセンスがあるなら、もっと進んでバトルすればいいのに」
 巡は顔を伏せる。
「……俺には……その資格はありません」
 巡の様子に違和感を感じて、戸惑ってしまった。何かいけないことを言ってしまったらしい。そのタイミングで、ユメトがパン、と手を叩いた。
「橘平くんがカレー温め直してくれたみたいだよ。夕食途中になっちゃったし、仕切り直そうか」
 毎度のことながら絶妙なタイミングのフォローだ。

 先ほどの配置に戻って、皆で再び食卓を囲む。
 要は膝の上で眠るリミティを撫でていた。司が「お代わりは?」と問うと、「司さんも食べるなら!」と笑顔で答えたのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。
 他愛もない会話が弾む。これから続く嵐の予兆を感じさせながらも、夕食の穏やかな時間は、あっという間に過ぎて行った。

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このまま夜が明けても良し、もうちょっと続いても良し、かなと。

[73] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:スラリン Date:2012/04/01(日) 04:01
「みんな、ちょっといいかな」
夕食が終わり、洗い物も済ませて皆が談笑していた中、司が切り出した。4人の視線が彼女に集まる。正直、この楽しい雰囲気を壊したくは無かった。けれども、皆が気になっていたことだ。今話しておきたかった。
「要の儀式の時といい、さっきといい、あの連中のことがずっと気になってるんだ」
「確かに、儀式の中止と言われると…それに、」
巡の視線を察した橘平が、咄嗟に目を逸らした。言葉の続きが、分かっていたのだろう。
インカムの連中が一体何者かは分からないが、確かにあの中に自分の兄はいたのだ。自分たちの儀式の妨害をしてくる。何かの間違いだと思いたかったが、先ほどの少女ははっきりと、『儀式の中止』と言い放った。それならば、自分たちとは敵関係だ。
「確か、橘平くんのお兄さん、司ちゃんのこと知ってたよね?」
「そう、そのことなんだ」
相変わらず、ユメトは言いたいことを言ってくれる。

その場にいなかった要には大まかにしか伝えていないが(というより、詳細が言えなかった)、確かにあの時、和守の口からはその場にいない第三者の名前が出てきた。
会話の内容が内容だったので男子3人は細かいことを聞けなかったが、名前が出てきた『明』は、司の従兄らしい。
橘平の兄と、司の従兄。和守の会話内容からすると、かなり仲は良いようだ。正直、あの時間のことは丸々忘れてしまいたかった。けれど、彼に聞けば何か分かるかもしれない。それが司の考えだった。
巡とユメトが頷く。要も、司の肩に寄り添いながら同調していた。正直、どうでもよさそうだ。
「僕は、代理なんだ」
橘平だけはむすっとした顔でそっぽを向いていたが、司のその言葉で視線を戻す。
「…本来なら、彼が儀式に参加するはずだった」
番号を入力し終えると、Cギアをスピーカーモードに切り替える。
Cギアをあたる彼女が何故か自分とだぶって見えて、橘平は誰にも気づかれないくらい小さく、唇を噛んだ。
『…もしもs』
「明ァ!!お前!赤の他人に一体何を喋ってるんだ!!!!」
センチメンタルな気分がぶち壊しだ!

『…ええと、かくかくしかじかで…僕に連絡をしてきたと』
「…僕が帰ったら覚えておけよ」
『ごめん…いや、まあそこは置いといて、だ。みんなそこにいるのかな。自己紹介させてよ』
みんな、というのは司の周りにいる4人のことだろう。
『僕の名前は、平儀野 明。司から聞いてるだろうけど、司の従兄だよ。よろしく』
「俺の名前はユメト。よろしくね」
ユメトが自己紹介をすると、電話越しの明が一瞬押し黙った。
「…ユメト君、ね。実は君のことだけは全然情報が入ってこなくて分からなかったんだ。よろしくね」
でも、ユメト君以外の事なら分かるよ!自信満々な声が腹立たしくて、司はCギアを投げつけそうになった。押さえて押さえて。
『要さん』
「…何?」
大体要は、通話先が男性という時点で興味関心は皆無だった。むしろ、司がCギアに構うのに腹が立った。早くこの会話終われよ。
『司以外に、女性は君だけだよね。司が迷惑をかけていないかな?』
「全然!!」
どうやら、司に関する会話内容ならOKらしい。
『巡君?』
「はい、よろしくおねが…」
『僕のお祖父様が君のお祖父様にお世話になってるね!君のお祖父様、スマブラ上手いよね!』
「!?」
自分じゃなくて、おじいちゃんだった!すまぶらってなんだ?司が首を傾げて、巡の顔を見ている。
『橘平君?わあ、和守からよく話は聞いてるよ!一度君とは話してみたいと思ってたんだ!』
「大体お前ら、秘密裏で何話してんだ!」
脳裏によぎるのは、数日前の和守の口から飛び出した、司のスリーサイズ。どんな情報交換をしてるんだ!
「まあ、付き合い長いから色々話してるよ?橘平君、ピーマン嫌いなんだって?」
ガタリ!橘平がその場から跳ねるように立ち上がる。
「き、嫌いじゃねェよ!!!それよりお前、喋りすぎなんだよ!早く本題に移れ!!!」
それはみんな思ってました。

『僕も、そんなことになってるとは知らなかったねえ』
いざ本題に入ると、それはあっけないものだった。前儀式代表者のよしみで和守とは以前から仲良くさせてもらっているが、自分は和守から何も聞いていない、と。なるほどなるほど、と1人で納得している。
「兄貴から何も聞いてねェのかよ。友達って言ってたじゃねェか」
『相手の情報を全て知るのが友達ってわけじゃないからね。和守にだって、話したくないこともあるさ』
少なくとも、俺は和守を信じてるよ。君たちを攻撃するのも、何か理由があってのことだと思う。それだけは言わせてくれと、そう言って電話は切れた。
「…くそ、文句を言ってやろうと思ったのに……」
司が歯噛みをする。電話越しの彼は、どうやらそれを察知したらしかった。

「結局、何も分からずじまいでしたね」
「時間をとらせて悪かったね。けれど、橘平、」
斜め前の彼女の視線が、真っ直ぐと自分に向いていて、
「僕は、好きだよ?」
「はッ!?」

「…ピーマン。美味しいじゃないか」
「嫌いじゃねェって言ってんだろ!!!」
再び談笑に戻る5人。時間は刻々と過ぎて行った。

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だから!!!長いんだって!!!!!

[74] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:如月ユイナ Date:2012/05/02(水) 17:53
その夜、ユメトは焚き火の前のウッドチェアに腰掛けて、タロットを弄んでいた。
野宿とはいえ場所がキャンプ場であるので火の番など必要もなかったが、なんとなく揺らめく火を見つめていると落ち着いたので、まだ明かりを消すように決められた時間ではないことを理由に火はそのままにしてあった。青白く発光するその炎は、言うまでもなく彼のパートナーのオペラのものだ。
いつもはユメトの側でふよふよと浮いている彼女だったが、今は珍しくボールに戻っていた。ユメトの、些細な心情の不安定さを察して一人にしてくれたのかもしれない。彼女は本当に、できた恋人のようだった。

『ユメト君、ね。実は君のことだけは全然情報が入ってこなくて分からなかったんだ。』

そうでないと、困る。
故にその言葉を聞いた時には安堵したが、それと同時に動揺もした。幸いにもその場はすぐに別の話題に移ったが、あそこで少しでも違和感を感じて誰かが聞き返していたら、自分はどう対応しただろうか。
ただ、これは過ぎたことだった。もう変わらない過去の事象にかまけている程、自分に猶予が許されないのをユメトは知っていた。
旅立ちの日に引いた運命の輪。その深い意味を知りたくとも、なかなか詳しく占い直せないのもそこに理由があった。

「何してんだよ。」
その声にはっとしてユメトが振り返ると、男子用のテントにいたはずの橘平がすぐ後ろに立っていた。不機嫌そうな態度と表情は相変わらずだが、それが全くの本心ではないことを、旅に出たこの短期間でユメトはすっかり理解していた。
「今ね、タロットで何か占おうと思ってたんだ。橘平くんは、こういうの信じる?」
微笑んでそう言いながら、ユメトがタロットを軽やかにシャッフルして見せる。それを見た橘平が、微妙な顔で言った。
「……なんかお前がやると、胡散臭さ倍増だな。」
「そうかな?」
ユメトはいつもの柔和な表情を崩さず、凄い早さでタロットをひと通り揃えてから、改めて橘平に向き直った。
「何か占ってみたいこととかある?」
「……え、…そう…だな…今月の運勢とかか…?」
「…なんかそれ、女性誌の占いコーナーみたいだね。」
「うっ、うるせェ!」

折角占うことを考えたのに、女性誌みたいと言われて顔を赤くして怒る橘平にごめんごめんと微笑みながら、ユメトが手際よくタロットカードをウッドテーブルの上に並べた。
タロット占いには無数のスプレッド、つまり配置の仕方が存在するが、占いに慣れた中級者以上の占者は大抵独自のスプレッドを持っている。ユメトもいくつかそれを持っており、今回並べたのもそのうちの一つの、簡単なものだった。
タロットで占う対象は詳細に決めていないと答えも薄ぼんやりとしたものになるので、占者は占う相手の相談や悩みなどを巧みな話術で引き出す技術が必要になってくるが、今回のこれは半ばお遊びのようなノリもあったので、あえてそこは省いて抽象的に占うことにした結果だった。
いつの間にか向かいに座って、そんなに気になってないけど一応見ておいてやるよと体全体でアピールしながら、しかしわりと真剣に自分の手元を見ている橘平に少し微笑みながら、ユメトが一番上のカードを捲った。

「――悪魔の正位置、だね。」
ユメトが捲ったカードには、不気味な姿の悪魔が歪に笑っていた。
「……おい、なんかこれ明らかに悪い結果出てんじゃねェ?」
「そうだねえ…悪魔の正位置の示す意味は、誘惑、魔がさす、障害に負ける、…とか色々あるけど…」
嫌そうな顔をしながら悪魔のカードを睨みつける橘平に、ユメトが少し困った笑いで小首をかしげながら続けた。
「一番気をつけて欲しいのは、あるものに囚われた状態になることかな。こだわり過ぎると、真実が見えなくなるよ。」
「なんだよそれ。」
「俺からの助言。どう、占いっぽいでしょ?」
そう言って笑ったユメトに橘平が少し眉根を寄せて、座っていたウッドチェアから立ち上がった。
「…一応覚えとく。お前もそんなことばっかしてねェで早く寝ろよ。」
「ありがとう、橘平くんは優しいね。」
「そっ、そんなんじゃねェよ!」

そう言ってさっさとテントに戻ってしまった橘平を見送って、ユメトはひとつ溜息を吐いた。悪魔の『逆位置』の意味は、悩みから開放される、ふっきれる。運命の流れで、カードが逆を向いてくれるといいのだけど。
(…俺も、ね。)
そんなことをやっているうちにいい時間になったので、ユメトは青白い炎に水をかけた。

++++++
遅くなってすみません。
長くなって、更にすみません……

[75] RE:RE:リレー小説本編スレ8
Name:鈴木ニコ Date:2012/05/03(木) 11:37
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