[49] リレー小説本編スレ6 [ 返信 ]
Name:日夏ゆうり Date:2012/01/14(土) 03:24 
リレー小説本編を書き進めていくスレです。
文章の解釈に迷ったり今後の展開などで言いたいことがありましたら設定用掲示板のリレー小説議論スレへどうぞ。
設定用掲示板:http://www3.atpaint.jp/mysyn/index.htm

長くなったので、新スレです!

[50] RE:リレー小説本編スレ6
Name:スラリン Date:2012/01/14(土) 04:42
「要、何か足りない日用品は無いか?」
「…特には無いかな」
「そうか、じゃあフレンドリィショップに行こう。ポケモンたちにも色々買ってやらないと」
「フレンドリィショップは…ここから10分くらい歩けばありますね」
要も頷き、3人は最寄りのフレンドリィショップに向かうことにした。
その間も他愛のない話をしていたが、要はどこか浮かない表情をしていた。

「僕は4人分の道具を買っておくから、君はリミティのための道具を見ておいで」
「じゃあ俺は司さんを手伝いますね。あ、外で待っていた方が良いですか?」
「フレンドリィショップで何を今更謙虚になってるんだ。僕はいいから要のカゴを持ってあげてくれ」
カゴを掴み、先に入った要を追いかけるようにして足早に店に入る。巡もそれを追いかけた。
店はそこまで広くない。入り口付近の棚で商品を眺めている要を見つけるのに時間はかからなかった。
「要さん、カゴ持ちます」
「私はもう少し商品を見てるから、司さんのところに行ってあげて」
「でも、司さんが要さんに…」
食い下がる巡に、要が面倒臭そうに言い放った。
「1人で見たいの」
眼も合わせることなく一蹴され、巡はそれ以上何も言えずにその場から離れた。
たらい回しというか、頼りにされていないというか、女性は強いというか…
手持無沙汰になり適当な商品を眺めながら歩いていると、回復薬のコーナーに司を見つけた。
司はあらかじめ買うものを決めていたのか、元から迷わない性格なのか、キズぐすり系やなんでもなおしなどを一瞥し、ぽんぽんとカゴの中に入れていく。
「司さん、カゴ持ちます」
「要のところに行ってやれって言っただろう?」
…キズぐすりを見ていた時と同じ眼だ……。
踵を返そうとしたが、あの様子では要のところに戻っても再び追い返されるのは明らかだ。
無意識のうちに、言葉に熱がこもる。
「持たせてください!」
「…!?」
まさかお願いされるとは思わなかったのか、司は面食らった様子だ。
しばらくは不服そうな顔をしていたが合点が行ったようで、苦笑いを浮かべた。
そこまで言うならと緑色のカゴを巡の胸の前に差し出す。受け取ったカゴは、ずっしりと重かった。

「ユメトが言っていた食料調達は、ポケモンフードも含まれていたのかな」
「どうでしょう…一応、こっちで買っておいた方が良いかもしれませんね」
確かに、ユメト達が買ってきていたとしても、どうせ消費するものだ。困ることは無いだろう。
回復道具は十分に買ったため、ポケモンフードコーナーに足を運ぶことにした。
リミティのポケモンフードは要が買っている。司と巡はそれぞれメイリオ、ピスケス用のフードを選び、カゴの中に入れる。
しかし、先ほどは手を止めずにぽんぽんと買っていた司が、はたと手を止めた。
「らいでんとオペラにはどのフードを買ったらいいのだろう…」
目の前の棚には、水タイプ向け、草タイプ向けと、それぞれのタイプに合わせたフードがある。
しかし2人ともいつも違うフードを与えているのかもしれないし、特にブリーダーであるユメトはフードにも気を遣っていそうだ。
巡も一緒に悩んでいると隣から、2人に聞けばよかった、と力ないつぶやきが聞こえた。
それがポケモンフードの事だけではないと、何となく気付いていた。
「ユメトさんには、色々話してくれていると良いですね」
「…ああ」

2人で色々と悩んだ結果、無難にゴーストタイプ向けと毒タイプ向けのフードをそれぞれ買うことにした。気に入ってくれるといいのだが。
買うものは一通り買っただろうと思ったちょうどその時、こちらに向かって来る要と目が合った。
「これだけで大丈夫ですか?」
開口一番、思わず巡が要に訪ねてしまう。
要のカゴに入れられていたのは、ノーマルタイプ向けのポケモンフードと、いいきずぐすりが1つ。
「だって、私の役目は終わったから」
アスクレの儀式の事を言っているのだろう。
だが、アスクレの儀式は終わっても、後4つ、神器は残っている。
「大丈夫、回復薬が足りなくなったら僕のを分けるよ」
僕たちは仲間なんだ。お互いに支えあっていけばいい。
その言葉にまた、要の表情が少し曇った。

---------------------------------------
うう、長い割に対して進んでない…!
かなめたんが逃亡前なので、あまりテンションを高くできませんでした(´・ω・`)
ユメトさんは美容師という以前に、恋人の食事には気を遣ってそうだなと。さすがお兄さん。
師匠、たらいまわしでごめんね…!

[51] RE:リレー小説本編スレ6
Name:ミンズ Date:2012/01/14(土) 21:22
「おいしいね」
買い物を終わらせて合流した一行は、ポケモンセンターでパートナーを引き取り、夕食をとった後、男子が泊まる部屋に集まってケーキを食べていた。
ケーキのイチゴはどのタイミングで食べるか、ケーキをくるんだビニールについたクリームは食べるか食べないかの話から発展して、アイスやヨーグルトのふたについてしまった分は食べるか食べないかなど、他愛も無い話でそこそこ盛り上がっていた。
無言でケーキを食べていた要は、最後に取っておいたイチゴをフォークで転がしながら皆の話を聞くともなしに聞いていた。
そんな要を見て、司が声をかける。
「要、イチゴ食べないのか?」
「食べる」
即答。しかしそっけない。
「要はイチゴを最後に取っておく派なんだな」
「ううん、気分で決める」
要は話の種にされたイチゴをつまんで、さっさと食べてしまった。
「ごちそうさま。先にお風呂入ってるね」
要は自分が食べた分だけ片付けて部屋から出て行ってしまった。
「要さんとはまだ距離がありますね…」
巡がぽつりと言う。
「まだ会って3日だからね。そのうち仲良くなれるよ」
ユメトが穏やかに答えて、こう付け加える。
「…要ちゃんは何か考えごとがあるみたいだから、司ちゃんは様子を見てあげてね」
「そうするよ」
司はしばらく談笑した後、男子部屋を後にした。
自分と要が泊まる部屋に入ると、要は既にベッドで布団をかぶって、壁の方を向いていた。
「寝てないから、音立てていいよ」
要がこちらを向かずに言う。
「ありがとう」
司は答えて、入浴の支度を整えて風呂場に向かった。
風呂から出て髪を乾かして、自分もベッドに潜る。
「要、起きてるか?」
返事は無い。
司は枕元の電気を消して、目を閉じた。
部屋は暗闇と静寂に包まれる。
要は眠っていなかった。壁の方を向いたまま、ただ時が過ぎるのを待っていた。

1時間ほどして、要が静かに起き出す。要は昼間の服装をしていた。
布団の中に隠し持っていた懐中電灯をつけて、隣で眠っていたリミティをモンスターボールに戻して荷物を持つと、机の上に何か置いて部屋を出て行った。
机の上には、「最低限の役目を終えたので帰ります。後は私がいなくても何とかなると思うので、追って来ないでください」と書かれた紙と、その上に置かれた神器の小箱が乗っていた。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
要の奴、大事な神器を文鎮代わりにしおった/(^o^)\
長くなったので一旦ここで切ります。続きは多分明日投稿できると思います。連続になってしまいますが大目に見てやってください。

[52] RE:リレー小説本編スレ6
Name:ミンズ Date:2012/01/15(日) 11:50
要は森の中を、懐中電灯の灯りを頼りに歩いていた。
どうして儀式から逃げ出したのか、理由はいろいろある。
元々儀式には乗り気でなかった。何が楽しくて神器など集めて回らなければならないのだろうと冷めた目で見ていた。
それでも一応、自分がやらなければならないと両親に言い聞かせられて出てきたので、最後まで付き合おうと思っていた。やるからには楽しもうとも思っていた。
自分の他に女の子が1人いると聞いて、かわいい子だといいなと、ほとんどそれだけを楽しみにして出てきた。
ところがその子は、一人称が「僕」の男だか女だかよくわからない子だった。要はがっかりした。
漠然と、帰りたいな、と思った。
初日の夜からムウマの群れに襲われた。幸い、大規模なバトルに発展することは無かったが、本気で帰りたいと思うきっかけになった。
どうやってここから逃げ出そうかと、逃げるための算段を立て始めた。だけどあくまで想像の域を出ず、本当に逃げるかどうかはまだ決めていなかった。
決定打となったのは、メタグロスを使う青年との2度に渡るポケモンバトルだった。あと何かもう1人特撮ヒーローの変身前みたいなのが居たようだけどバトルしているところは見ていないのでよくわからない。
地形をも変えてしまうバトルに、要は心底恐怖した。
前回の儀式に出た叔父からは、儀式中はバトルといえば野生ポケモンを追い払うくらいだと聞いていた。
これでは話が違う。
要はバトルが嫌だった。
リミティはバトルに出すと尻尾を振って喜ぶし、リミティを戦わせること自体に抵抗は無いのだが、リミティが傷つくのは嫌だった。
純粋な競技としてのバトルは要も好きだった。頭の中で戦略を練るのは好きだし、リミティが危なくなったら、負けさえ認めればそれ以上バトルを続ける必要が無いからだ。リミティは傷つかずに済む。
しかし、後に退けないバトルは駄目だった。リミティが傷つくのは想像するだけで嫌だった。
リミティ以外のポケモンが傷つくのは、そのトレーナーとポケモンが良いなら別に良かった。好きでやっているならそれでいいと思っている。
だけどリミティを巻き込むのはやめて欲しかった。
2度目のメタグロス戦後、何か不良っぽい人にリミティを戦わせないことを責められた。
男だけど保母さんみたいな人にも、リミティを戦わせることを促された。
今度敵と戦うときには確実に戦わされると危機感を覚えて、逃げようという心が完全に決まった。
「帰ります」と書き残してきたものの、要はジョウトに帰るつもりは無かった。もしかしたら儀式を完遂して来いと再度送り出されるかもしれないからだ。
儀式が終わるまで、サクヤタウンにある曽祖父の家に身を寄せるつもりでいた。
詳しいことは知らないが、60年前の儀式のとき、曽祖父の兄が儀式の途中で失踪し、曽祖父は代理で儀式に途中参加したそうだ。
その際訪れたサクヤタウンを気に入り、隠居した後に曾祖母と共にジョウトから移り住んだらしい。今は趣味で伝統工芸品を作って売りながら、のんびり暮らしている。
曽祖父は要に甘かった。きっと曽祖父なら、要を儀式に追い返すことはしないだろう。
そしてサクヤタウンは、5つ目の神器のある町でもあった。
もしどうしても自分が必要なら、儀式の一行が5つ目の神器を回収した後で合流して、イズモタウンでの儀式に臨めば良い。
そう考える程度には、儀式に対して無責任になりきれていなかった。
サクヤタウンに行くには、ここから町を3つ越えなければならない。
交通手段はもう考えてある。
アスクレタウンに到着した日に食事をする店を捜し歩いた際、マイシン島観光協会アスクレ支部の建物があるのを見つけてチェックしていた。
観光協会になら、飛行ポケモンが何体も所属しているだろう。
お金を出して、そらをとぶでサクヤタウンに送ってもらえばいい。
儀式における自分の最低限の役目は終わり、後は自分が居なくても何とかなる。
儀式の皆にはそっけなくしていたし、置手紙も残してきたので、彼らが自分を探すことはまず無いだろう。
探したとしても長くて半日程度、それで見つからなければ諦めて次の町に進むだろうと踏んでいた。
大事を取って明日の15時頃まで森の中に身を隠して、それから観光協会の扉を叩けば良い。
アスクレタウンは森に囲まれている。どの方角に逃げれば一番見つかりにくいか考えた末、神器を取った神社森を選んだ。
「帰ります」と書き残してきたので、ククルタウン方面は探すとしたら真っ先に探されるだろう。
エシュタウン方面もまずい。エシュタウンに向かう一行と出くわす可能性がある。
その点、神社森は好都合だった。
神器を取るためにギャラドスに乗って遠くまで見渡せたとき、神社森が広く深いことがよくわかった。
この森に逃げ込めばまず見つかることは無いだろう。
だから要は今、神社森に居た。
森が深まるにつれ、歩きやすかった地面はごつごつと歩きにくくなってきた。もうこの辺りには人の手が入っていないのだろう。
ヨルノズクの鳴き声が不気味に響いている。
要は心細くなって、眠っているリミティをボールから出して抱いた。
抱き慣れたリミティの重みに安堵する。
あまり森の深いところまで進むのも怖いし、浅いところでは見つかる可能性が高まる。
あと5分歩いたらそこに落ち着こうと決めた。
「ツー…?」
リミティがうっすら目を開ける。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ツー……」
リミティはぼんやりと周囲を見回して、自分がいつの間にか森の中にいることを知ってきょとんと首を傾げた。
要はリミティにポケギアの地図を見せた。
「今、このへんに居るんだよ」
「ツー」
「あ、そうだ。野生ポケモンが出るかもしれないから、一応けむりだま持ってようか」
荷物の中からけむりだまを出して、リミティに持たせる。
「ツー!」
リミティはけむりだまを使おうとした。
「あ、今使わなくていいから」
「ツー、ツー!」
「何?」
「ツー!」
リミティの声が緊迫しているのを感じ取って、要は後ろを振り返った。
背後には、無数の赤い目が光っていた。

+++++++++++++++++++++++
なっげえ…すみませんもう少し続きます。
リミティさえ傷つかなければいいとか勝手だと思いますが、本音としては理解していただけるといいな、と思います。

[53] RE:リレー小説本編スレ6
Name:ミンズ Date:2012/01/15(日) 14:28
赤い目の正体は、ポチエナとグラエナの群れだった。歯を剥き出しにして「いかく」している。
あまりの数に現実感が無く、逆に冷静になってしまう。
これだけの数を相手にけむりだまが通用するだろうか。多分無理だろう。
要はリミティを下に降ろした。
「ごめんね、ちょっと技出してくれる?」
「ツー!」
リミティは無数の敵を相手に、要を守ろうと進み出た。
グラエナの「いかく」に一瞬ひるんだ様子を見せるが、すぐに小さな体を突っ張らせるようにして「いかく」を返す。
進化後のポリゴンZを思わせるような形相に、十数匹のポチエナが尻尾を巻いて逃げた。
要は内心落胆する。ポチエナの「にげあし」をトレースできればあっさり逃げられたろうに、グラエナの「いかく」をトレースしてしまった。
すぐに気を取り直す。駄目で元々の賭けだった。このくらいは想定済みだ。
数匹のグラエナが一斉にリミティに飛びかかった。
「ふぶき!」
「ツー!」
吹雪が巻き起こった。リミティに飛びかかったグラエナが、暴風を受けて吹き飛ばされる。
リミティから向こうが、そこだけ世界から切り取られたような銀世界になった。
要は荷物の中から出したサングラスをつけた。
「フラッシュ!」
リミティの体から強烈な光が発せられた。光は雪に乱反射して、暗闇に慣れたグラエナたちの視覚を奪う。
「けむりだま使って!」
「ツー!」
「ありがとう、戻って!」
リミティがけむりだまを使うのを確認して、要はすぐにリミティをボールに戻して走って逃げた。
吹雪で足場を奪い、フラッシュで視覚を奪い、けむりだまで嗅覚を奪った。体も凍えてうまく動かないだろう。これでもう追ってこられまい。
ふぶきとフラッシュの組み合わせは、儀式に出るにあたって叔父から教わった、暗闇で多数の敵を相手にしたときの逃走用コンボだった。まさか使う日が来るとは思わなかった。本当にそんな状況があったとは。
全力疾走。地面がごつごつして走りにくい。すぐに息が切れる。
急に景色が開けて、月明かりが明るく感じられた。目の前は崖だった。かなり高い。落ちたら絶対に命は無いだろう。崖の下にも、黒々とした森が広がっていた。
立ち止まる。
立ち止まったら何だか力が抜けて、要はその場にへたりこんだ。ここまで逃げれば大丈夫だろう。
「ぐるるるるるるる」
周囲から唸り声が聞こえた。グラエナだ。さっきより大分数は減っているが、囲まれている。
要は自分が野生ポケモンを舐めていたことを悟った。
要は震える足で立ち上がった。リミティをボールから出そうとするが、グラエナが飛びかかってくるのが一瞬早かった。
「うわあ!」
要は飛び退った。噛み付きからは逃れたが、飛び退ってバランスを崩した上にグラエナにぶつかられたのでひとたまりもなかった。
「―――!」
要は声も上げられずに、崖から落下した。

++++++++++++++++++++
ポチエナもグラエナもかわいーにゃーもふもふもふもふもふ!
出せて満足であります。
多分もう1回分でかなめのターン終わります。終われるといいな。

[54] RE:リレー小説本編スレ6
Name:ミンズ Date:2012/01/15(日) 16:18
落下は妙にゆっくりに感じられた。
死んだな、と思ったら、唐突に静かな気持ちになった。いまこの瞬間、現実は要と関係無いところで流れていた。
と、途端に体に痛みと衝撃が走る。
「……っ」
今度は痛みで声が上げられなかった。無意識に受け身を取っていたようで、頭もしたたかに打ち付けたが、意識を奪うほどではなかった。
急激に戻ってくる現実感、それに伴う恐怖。
頭上では、グラエナが唸り声を上げながらこちらを覗き込んでいた。
しばらく崖の傍をうろうろして、諦めたように去っていく。
要は詰めていた息を吐き出した。
そろそろと体を動かしてみる。痛みに我知らず顔が歪むが、どこも何とか動いた。
思ったより落ちなかった。何故だろう。
起き上がって周囲を見ると、自分は運良く崖の途中にせり出した大きな岩の上に落ちたのだということがわかった。
岩の大きさは縦横に2メートルずつといったところか。この上に落ちるなんて、本当に運が良かった。少しずれていたら命は無かった。
要2人分くらい先の頭上には誰もいない崖、どのくらい下かもわからない遥か下には黒い森が広がっている。
要はリミティをボールから出した。
「ツー…?」
リミティは要の様子を見て、心配そうに要に擦り寄った。
「大丈夫だよ。ありがとう、リミティ」
「ツー」
「リミティ、でんじふゆうしてみて。崖の上に上がれるかどうか見たいんだ」
「ツー!」
リミティは浮かび上がった。しかし、2メートルほど浮かんだところで静止する。
「それ以上は無理?」
「ツー…」
「そっか、ありがと。戻ってきて」
「ツー」
リミティは要の元に降りてきた。つんつん、と口先で要の膝をつつく。
要はリミティを抱き上げて、膝の上に乗せた。撫でながら、殆ど独り言のように言葉を発する。
「これからどうしようかねー…」
のんきな風を装って、のんびりと言う。そうでもしないと不安で涙が出そうだった。
「あ、そうだ、ポケギア。こういうときのためのポケギアだよねー…地図地図っと…」
わざと鼻歌なんか歌いながら、ポケギアを操作する。
「あ、地図じゃないっけ、電話だった。やだね、私ったら」
自分は思った以上に動揺しているようだ。
「圏外、か……」
こんな深い森の中だ。圏外だということなど、調べる前からわかっていた。しかしわらにもすがる思いだったので、落胆は大きかった。
「あはは、は、まいったなー。どうしよっか」
「ツー……」
「大丈夫だって、きっと何とかなるよ」
「ツー…………」
「……」
「……」
「リミティ」
「ツー」
「キスしよ?」
「ツー!?」
「リミティかわいすぎるんだもん!ちゅーしたい!ちゅーー!!」
「ツ、ツー!」
リミティは要の膝から逃げた。
「待てー!」
「ツー!」
2メートル四方での悲痛な鬼ごっこ。
「死ぬ前にファーストキスくらいは済ませておきたいし!リミティ相手なら悔いは無いよ!むしろ嬉しい!」
要は自分が何を口走っているか全くわかっていなかった。
「ツー!」
リミティは必死で逃げた。そして、つるりと滑って落ちた。
「わ!戻って!」
慌てて落下途中のリミティをボールに戻す。危ないところだった。
リミティをボールに戻したら、途端に静かになった。
孤独が要を包む。虚しさが心を支配する。
無理に動かした体の痛みが要の精神をじわじわと蝕む。
さっき自分が口走ったことの意味が、今になってじんわりと心に染み渡った。
自分の発言に自分でショックを受ける。
「そう…か、私、死ぬのか……」
ここで死ぬのか。
助けは恐らく来ないだろう。限りなく探される可能性が低い場所を、要が自ら選び取ってしまったのだから。
絶望。
未来には死が待っていた。過去を振り返ると、甘い考えで逃げ出した愚かな自分がいた。
要は未来から目を背けて、未来より幾分かましな過去に縋った。そして、逃げ出した自分を呪った。
後悔、後悔、後悔。
「う、」
要はいつの間にか泣いていた。自分が泣いていることに刺激されて、より激しく泣いた。
要の泣きじゃくる声が夜の森に響いたが、誰もそれを聞く者はいなかった。

要1人を置き去りにして、淡々と夜は更けていった。

++++++++++++++++++++++
3メートルも落ちてよくこれで済んだなこいつ。
そこはまあポケモンワールド補正ですね。ポケモンワールドの連中は絶対ホモサピエンスに分類されない。
かなめのターンは終わりです。長くなってしまってすみませんでした;
次の方よろしくですー!

[55] RE:リレー小説本編スレ6
Name:スラリン Date:2012/01/20(金) 21:47
司が静かに目を開けた。
視界は闇で覆われている。どうやら早く起きすぎてしまったようだ。
再び眠りにつこうと寝返りをうつが、中々寝付けない。ベッドライトをつけて時計を確認すると、針は5時10分をさしていた。
時計を見た際に要の寝ていたベッドに目をやると、そこは誰もおらずもぬけの殻となっていた。
(…顔でも洗ってるのか?早起きだな…)
自分も身支度を始めようと、部屋の電気をつける。と、部屋のテーブルに何かを見つけた。
「ん?」
白い紙と、小さな箱。
白い紙は手紙だと分かった。手に取り読み進めていくと、司の顔色が見る見るうちに青ざめていった。

ドンドンドンドンドンドン!!!!!
完全に眠り込んでいた3人が、目覚ましより大きい音で叩き起こされた。
「!?お、おはようございます…」
「ん、おはよう…誰かな?随分と早いね」
「んだよ朝っぱらからうるせぇな…!」
寝起きの頭を強制的に働かされ、ぼんやりしている暇さえ与えられなかった。
ドアから一番近いところに寝ていたユメトが部屋の明かりをつけドアの鍵を開けると、こちらがノブを引く前に扉が勢いよく開かれた。
ドアを叩いていたのは司だった。ユメトの顔を見るなり、両腕を鷲掴みにする。
「ユメト!要が!!」
「司ちゃん!?どうしたの落ち着いて!」
ひとまず司を男子部屋に迎え入れる。彼女の姿を見て、巡と橘平も驚いた。
「みんな、要が、要が…」
「司ちゃん、ひとまず落ち着いて深呼吸してみて。話を聞くのはそれからだよ」
ユメトの声にようやく我に返ったのか、司は深呼吸を二回。その後、早朝の突撃訪問の理由を、手元の小箱と手紙を見せながら語った。

要はずっと悩んでいた様子だった。分かっていたのに、何も解決させることはできなかった。
どんなに邪険に扱われようと、どんなに顔を背かれようと、無理にでも話を聴くべきだったのだ。
そうしたら、解決方法も一緒に探せた。お互いの悩みを打ち明けあって歩み寄れた。
少しは頼られていると思っていた。一番彼女と過ごす時間が長い自分を過信していたのだ。
しかし、何も言わず要は去って行った。自分の頼りのなさ、情けなさを心から恨んだ。
一通り司の説明が終わると、3人は複雑な表情を浮かべた。
特に橘平は先日の喧嘩の件もあり、うつむいて誰とも目を合わせようとはしなかった。

「僕は要を探しに行く。もう一度会って、説得したい」
「…あいつが選んだことなのに?」
「それでも、だ。自分勝手な考えだとは思うけれど、要の口から理由を聞きたいんだ」
「俺も、一緒に探させてください。このまま要さんと別れるのは嫌ですから」
ユメトが頷く。橘平は頷きこそしなかったが、嫌がっている様子はなかった。
「とりあえず、何をするにもまずは準備をしないとね。司ちゃんも、身支度をしておいで」
その言葉で初めて司は自分が寝間着で、髪もろくに梳かしていないことに気が付いた。
みっともない姿をさらし顔から火が出る思いをしたが、恥ずかしがっている暇は無い。
準備ができ次第、フロントに集合ということで話はまとまった。

------------------------------------------
遅くなってしまいました…!
本当は王子がククルタウンの港までメイリオに乗って探しに行くところまで考えていたんですが、長くなってしまったので。
早くかなめたんを見つけてあげて…!(´;ω;`)

[56] RE:リレー小説本編スレ6
Name:鈴木ニコ Date:2012/01/21(土) 02:16
三人がフロントに駆けつけると(巡はコートの前を閉めながら。橘平は結局直らなかった寝癖を気にしながら。しかしユメトだけは完全体だった)、乗馬スタイルの司がスタンバイしていた。
「僕は、メイリオに乗ってククルタウンの港を見てくるよ。要は船を使うはずだから」
轡と手綱を装着したメイリオが足踏みをする。この脚力ならば、ククルタウンまでそう時間はかからないだろう。
「うん。そっちは司ちゃんとメイリオに頼もうかな。でも、無理はしないで」
「ありがとう。大丈夫だよ」
ひらりとメイリオに跨がる司は、まさに白馬に乗った王子様だ。

「あの。俺は、アスクレタウンの観光協会を見てきます」
控えめに手を上げたのは巡だ。こういうときくらいしゃきっとしろ!というツッコミは次回にしよう。司が地図で確認すると、それは町の入口付近にあった。
「僕たちの通り道だ。よし、」
司の意図を察したメイリオが、不機嫌そうに唸る。司はその背を優しく撫でて、

「巡、後ろに乗ってくれ!」

王子様からのお誘いに、橘平は寝癖を弄る手を止めた。ユメトはなるほどと頷きながらも、隣の橘平の様子を伺っている。そして巡は、
「じ、自力でついて行くので、だいじょうぶです」
明らかに動揺していた。
「メイリオの脚力を嘗めるな!心配するな。二人乗りは初めてではないし、メイリオは僕が乗っているときはおとなしいんだ」
「いえ、問題はそこではなくてですね…」
そういえば、巡は意外と頑固なやつだった。なぜ脚をさする。司はいらいらしてきた。
「なんなんだ!しゃきっとしろ!!!」
あ。結局言ってしまった。

「司ちゃん。俺は、町の出口のほうを捜してみるよ」
助け舟を出したのは、安定のユメトだ。司はわかったと頷く。司の注意が逸れてほっとした巡は、ユメトに目でお礼を言った。
「なにかあったら、これで連絡を取り合おう」
地図を確認したときと同じように、Cギアを操作して電話番号を表示させる。アスクレタウンへ向かう道中に、お互いのそれを交換していたのだ。要は圏外になっていた。

「…………おい、」
今度は予想外の人物だった。先程まで、うつむいて寝癖を弄っていた彼だ。寝起きのような(実際に寝起きだが)低い声だったので、司と巡はすこし身構えたが、
「俺の番号。教えてなかったから…」
お前たちのも、教えろよ。
ユメトは満足そうにCギアを取り出した。


「僕はククルの港。ユメトと橘平はアスクレの街と出口。巡は観光協会 …本当に徒歩でいいのか?」
「はい。お願いします」
「それじゃあ、行こっか」
メイリオが地を蹴る。巡が続く(今のところメイリオとも結構いい勝負だ)。その反対方向にユメトが走り出すと、橘平も同じ速さでついてきた。

--------------------------------------------------
あれ。ごめんなさい。全然進まなかったです。かなめたんごめんなさい…まってて…
Cギアを勝手に持たせてしまいましたが、問題があったら教えてください。電話番号交換も。そして無意識なのにゆめきぺになってしまう不思議。あと、内腿が弱いばかりに王子との二人乗りができない残念なめぐる。ざまあ!

[57] RE:リレー小説本編スレ6
Name:日夏ゆうり Date:2012/01/21(土) 02:37
このスレはここでおしまいです!
次のスレへどうぞ!

もどる